オリジナルのオンリーワンETFを組成

思い起こせば、今年の1月の下旬でしたが、著名ブロガーの水瀬ケンイチさんから、山崎元さんと水瀬さんの共著本の「ほったらかし投資術(朝日新書)」の全面改訂にあたり、山崎さん、水瀬さん、私との鼎談(ていだん)で、同書に出演しないかとのお誘いを受けました。2月下旬にこの鼎談が実施されました(内容は同書の第4章をご覧ください)が、その後の御酒の席で、水瀬さんから日本株バリュー・均等額投資のETFが作れないかとのお問い合わせをいただきました。数年前から続く水瀬さんからのリクエストですが、TOPIXや日経平均とは違う動きになり、トレードやヘッジがしにくいことから指定参加者の組成賛同を得るのが難しく、また、日本のETF市場のメイン投資家である銀行に投資していただけるか自信が持てないことから、商品開発検討リストに記載するのみに留めていました。

その頃、ちょうど新たな運用会社が日本のETF市場に新規参入してきました。また、日本の株式市場環境やETF市場の急速な成長を見て、海外の同業他社からの頻繁な問い合わせを見ると、競争環境の激化は火を見るより明らかで、オリジナルのオンリーワンETFを組成し、市場に問う必要性が痛感されました。

今まで400社以上の金融機関を往訪した経験から、たどり着いた新ETFのコンセプトが「高配当」と「低価格変動性」でした。しかし、日興アセットマネジメントは、上場インデックスファンド日本高配当(東証配当フォーカス100)(1698)というETFを既に立ち上げていました。このETFは日本株90%、Jリート10%の組み入れで、四半期毎に分配するETFです。Jリートを組み入れているので比較的安定的に分配を出せるのですが、このJリートが組入れられていることで投資家には管理がし難いという声も多々ありました。そこで日本株のみで、「高配当」かつ「低価格変動性(最小分散、低ボラティリティ)」を目指すこととなりました。

新指数の開発

日興アセットマネジメントはインデックス運用商品のみならず、アクティブ運用商品を積極的に展開しています。ルールベースのアクティブ運用であるクオンツ運用部隊もおり、著名な京都大学経営管理大学院の加藤康之特定教授のご協力を得て、新運用戦略、スマートβの研究・開発を行っています。このクオンツ運用部隊が日本株のみで「高配当」かつ「低価格変動性(最小分散、低ボラティリティ)」の運用戦略の開発を行なうことになりました。その際の開発目標が、配当を市場平均より0.5%引き上げることと変動性を市場より2%抑えるというものとしました。その目標や流動性の確保、回転率を押さえる工夫などをほどこし、苦闘すること凡そ3か月、満足のゆく指数ロジックが出来上りました。さて、ETFに仕組むには指数(インデックス)を公表する必要があります。そこで、このロジックで指数を算出する計算代理人を捜して、算出を御願いする必要があります。実はオリジナルの指数ロジック作成では、一部MSCI社のデータをベースにしていました。そのことから同社に計算代理人の検討を御願いすることになりました。しかしながら、オリジナルの指数ロジックをそのまま再現するのは同社でも難しく、一部を同社の手法に置き換えたりして、当初の運用目標を達成するように、再度、作り上げることになりました。凡そ2か月近くかけて出来上がった指数が「MSCIジャパンIMIカスタム高流動性高利回り低ボラティリティ指数」になります。

MSCIジャパンIMIカスタム高流動性高利回り低ボラティリティ指数とは

この指数の計算方法は、親指数にあたるMSCIジャパンIMI(Investable Market Index)指数の構成銘柄(MSCIジャパン+小型株)をユニバースとし、四半期毎(2、5、8、11月)に見直しが行われます。そのため、MSCIジャパンIMIカスタム高流動性高利回り低ボラティリティ指数(以降、「高配当低ボラティリティ指数」)も同じタイミングでリバランスされることとなります。そして、①GICSの業種分類の4010-銀行、4020-その他金融、4030-保険、404020-リートをユニバースから除外、②一カ月の値付率が85%未満の銘柄を除外、③一カ月の売買代金の上位400銘柄を選定、④配当利回りの高い上位150銘柄を選定、⑤MSCI Global Minimum Volatility Indexと同じ最小分散になるように最適化を行なう手法で、同150銘柄の最適化を行なう(最大ウエイト1%・最少ウエイト0.05%の制約付き)という手順で指数を作ります。銘柄数は120~130程度になります。

指数の構成銘柄トップ10(2015年8月31日)
  TOPIX 構成銘柄トップ10 高配当低ボラティリティ指数 構成銘柄トップ10
1 トヨタ自動車 4.64% 旭化成 1.02%
2 三菱UFJフィナンシャル・グループ 2.74% エーザイ 1.02%
3 三井住友フィナンシャルグループ 1.63% 野村総合研究所 1.02%
4 NTT 1.56% みらかホールディングス 1.02%
5 本田技研工業 1.54% 伊藤忠テクノソリューションズ 1.02%
6 みずほフィナンシャルグループ 1.49% 北陸電力 1.01%
7 ソフトバンクグループ 1.38% ファミリーマート 1.01%
8 KDDI 1.29% ユー・エス・エス 1.01%
9 日本たばこ産業 1.18% 太平洋セメント 1.01%
10 セブン&アイ・ホールディングス 1.09% 日本たばこ産業 1.01%
  • ※高配当低ボラティリティ指数において1%超となっているのはリバランス後の時価変動のため。
  • ※上記銘柄について、組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。
  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。

同指数は上記を見ていただいてもおわかりいただけるように、1%の組み入れ制約があることから、等金額投資的な性格が出てきます。また、配当株はバリュー株的な性格です。これはMSCIのファクター分析をしても、バリュー株ポートフォリオであることが確認できます。結果、前述の水瀬さんのご要望に近い仕上がりとなりました。

MSCIジャパンIMIIカスタム高流動性高利回り低ボラティリティ指数の特性

次のグラフは高配当低ボラティリティ指数とTOPIXの業種別構成比率の比較(2015年8月31日)です。

高配当低ボラティリティ指数とTOPIXの業種別構成比率の比較(2015年8月31日)

  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
  • ※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

業種構成がTOPIXとは大きく異なるのがご理解いただけるかと思います。また、銀行、保険、証券といった金融株が除外されています。これは銀行のような投資家が投資する際に、自己資本比率の計算で資本から控除される事態を回避するためです(詳しくは、コラムNo.31バーゼルⅢ規制に対応するための新ETFをご覧ください)。

さて、高配当低ボラティリティ指数の最大の目標である高配当と低ボラティリティの特性はどのような仕上がりになっているでしょうか。
まずは、高配当ですが、2007年6月29日~2015年8月31日の期間ではTOPIXとの比較で、平均0.66%と目標の0.5%を上回る水準です。

指数ベースの配当利回り推移(2007年6月30日~2015年8月31)

  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
  • ※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

次は、ボラティリティ(価格変動性)です。

価格変動性推移(期間3年)(2010年5月31日~2015年8月31日)

  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
  • ※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

2010年5月31日~2015年8月31日の期間3年の変動性ですが、平均▲2.34%となっており、目標の▲2%を下回っています。
狙いどおりの特性となっています。その配当込のパフォーマンスですが、次のチャートをご覧ください。

配当込累積パフォーマンス(2007年5月31日~2015年8月31日)

  高配低ボラ TOPIX 差分
2008 -34.0% -40.6% 6.6%
2009 28.1% 7.6% 20.5%
2010 4.5% 1.0% 3.5%
2011 -4.9% -17.0% 12.1%
2012 14.3% 20.9% -6.5%
2013 49.1% 54.4% -5.3%
2014 14.4% 10.3% 4.1%
2015 17.7% 10.3% 7.4%
  • ※2007年5月31日を1000として、公表値をもとに、日興アセットマネジメントが指数化しています。
  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
  • ※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

かなり魅力的なパフォーマンスになっていることがご理解いただけると思います。ただし、年間騰落率の表を見ていただくと、2008年と2011年の下落のタイミングではTOPIX、市場程には下落しなくて済み、2009年、2014年、2015年(8月31日まで)は上昇相場にアウトパフォームしている一方、2012年と2013年の上昇相場ではアンダーパフォームしています。高配当低ボラティリティ指数はスマートβ指数に区分けされるかと思いますが、市場に対して銘柄選定をする結果、市場に対してリスクを取っているので、当指数のようなスマートβ指数に一般的なことではありますが、必ずしも常に市場に対してアウトパファームできる指数ではないことはご承知置き下さい。
次のチャートはTOPIX及び競合するであろう指数との比較です。

配当込累積パフォーマンス(2007年5月31日~2015年8月31日)

  • ※信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントが作成。
  • ※グラフおよびデータは過去のものであり、将来の運用成果などを約束するものではありません。

高配当低ボラティリティ指数が相対的に高パフォーマンスであり、投資魅力の高い指数であることは変わりがありません。

上場インデックスファンドMSCI日本株高配当低ボラティリティ(1399)

上述で見てきたように、高配当低ボラティリティ指数は投資魅力の高いものであることがご理解いただけると思います。この指数をETFにパッケージしたものが、この2015年12月1日に上場する上場インデックスファンドMSCI日本株高配当低ボラティリティ(1399)になります。
当ETFは、高配当低ボラティリティ指数に採用されている銘柄の株式に投資を行ない、高配当低ボラティリティ指数の計算方法に従ってポートフォリオを構築し、原則としてそれを維持することにより、基準価額が同指数の動きと高位に連動することをめざすものです。また、毎年1月、4月、7月、10月の四半期毎に決算をし、分配を行います。
なお、投資対象の株式には3月、6月、9月、12月以外の決算期の株式があります。よって上場インデックスファンド日本高配当(東証配当フォーカス100)(1698)とは違って、若干ながらも分配金の希薄化・濃縮化がおこります(詳しくは、コラムNo.2 分配型ETFは悪いファンド?をご覧ください)。こちらはトータルパフォーマンスを追求した結果です。

日興アセットマネジメントは投資家の方々の様々なニーズにお応えするべく、これからも様々なETFを立ち上げていきたいと考えています。今回は、分配及びボラティリティに焦点を当てたETFを立ち上げました。これからもお応えすべきニーズを明らかにして、そのニーズに合った指数を探し、組成し、ETFを作ってゆきます。引き続き当社の開発するETFにご期待いただければと思います。よろしくお願いいたします。